2014年11月20日木曜日

米国子会社取引~商船三井の場合と「事実認定」の「技術」〜


 11月20日、今朝の日経朝刊に、これまた小さく小さく報道されていて、知りました。
 日経
 「商船三井は10年、税務当局から米子会社との港湾作業契約の料金が不当に高く、子会社への実質的な寄付行為にあたるなどと指摘され、49億円を追徴課税された。通常の商取引とする商船三井の異議が認められ、税金の還付が決まった。」
 
 異議申立てで課税処分が取り消しとなったのかと思いきや、商船三井の発表によると、国税不服審判所の審判によって課税処分が取り消されたようです。 

 2010年の課税処分。
 ただ、そもそもの更正処分は、移転価格税制に基づくものもあったようで、ただ、こちらは2013年2月、日米の税務当局による相互協議での合意により、二重課税部分とされた金額は、課税所得とされた部分の75%が減額され、商船三井もこれを受け入れていたようです。

 残るのが、寄付金課税ということで、この点を争っていたところ、国税不服審判所は処分を取り消したようです。

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 港湾作業
 確かに、特殊な業界だと思います。詳しくは知りませんが、放送業界などと同様、独特の取引慣行等のある業界ではないかと考えられます。
 放送業界と同様、他に似た、比較する業種がないものです。
 そこで「港湾作業契約」の対価の適否が問題となったようですが、結局、国税局の方が、「事実認定」があまかったということなのでしょう。
 
 課税処分が、国税不服審判所の裁決やあるいは裁判所での判決で取り消される場合というのは、結局、課税処分をした当局が主張する「事実」が、証拠上、認められないということです。

 この「事実」の認定は、長年の経験や直感で決まるものではありません。
 自著「税理士・弁護士のための不服手続申立ガイド」でも強調しているところですが、審判も判決も「手続」です。
 課税要件となる「事実」があったというためには、税務調査職員が納得すればいい、上司の税務署長が納得すればいいといったレベルのものではありません。

 結局は、「裁判官」が納得するかどうかです。
 国税不服審判所においても、判断は、第三者的機関として、裁判官的なものの見方をするように務められているかと思います。
 
 その行き着く先を考えたら、税務調査段階でも、課税をする税務職員らが意識すべきなのは、課税要件となる事実が認められるか否か、「裁判官なら、この証拠状況でどう判断するだろうか?」ということです。
 
 そして、これを実践するためには、実際の裁判手続において、どのような証拠が、どのように評価され、どのような経験則がもちいられるのか、裁判官は当事者、担当者らの証言の内容をどのような手法でもって判断するのか、そうした「事実認定のための技術」を知る必要があります。
 弁護士や検事といった法曹実務家においては、ごくごく当たり前のことが、よくよく考えたら世間一般では当たり前ではなかった、これは特殊な訓練のたまものともいえる特殊な技術だったということに国税不服審判所で働いてみてあらためて気づくことができました。

 現在、税務署、国税局において、末端の税務職員にまで、このような「事実認定のための技術」が教育されているのでしょうか?つまり、証拠の評価です。裁判所では,この「証拠」といわれるものはどのように評価されるのか、とういことです。

 よくはわかりませんが、納税者が徹底的に争った場合に、事実認定のところでこけて課税処分が取り消されている判例等をよむと、おそらく「体系的な研修」はそれほど徹底されていないのではないかと思われます。

 国税職員や、あるいは税理士さんは、もっと民事訴訟法を学んだ方がいいといった旨を自著に控えめに書いた真意はここにあります。

 「手続における事実認定」は、「技術」です。

 訓練がないと、実用には耐えられません。
 しかし、訓練すれば、裁判官が考えるように考えることができます。
 そこで、税務調査の段階において、税務調査職員と納税者との間に、証拠を巡る発展的な緊張関係が生まれれば、日本の税務行政の質がさらにあがり、結局は納税者もハッピーになる、そう夢想しています。

(おわり)

*海には海の掟がある。


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