2014年10月31日金曜日

頑張れ、「質問調書」!まだまだ伸びる、はず!



 所属する租税訴訟学会近畿支部の研修に参加してきました。
 「租税不服審査制度改革の意義と今後の課題ー行政不服審査法・国税通則法の改正をふまえて」とのタイトルで、講師は、租税法・行政法で著名な大阪の弁護士、水野武夫先生でした。
 午後6時30分から午後8時20分ほどの約2時間、休みなく、一気に、これまでの歴史を踏まえながら、改正法の解説と問題点の解説等をしていただきました。 
 圧巻の研修でした。

 行政不服審査法改正に伴う、国税不服申立手続きの改正、国税通則法の改正ですが、やはり一番の問題点、骨抜き箇所は、水野先生も指摘されている、改正国税通則法97条の3だと思います。

 なんと!!まさかのびっくり!!
 証拠書類等の閲覧・写しの交付の対象として、国税通則法97条1項1号が除外されている。

 裁決書をいくつも見れば明らかだと思いますが、国税不服審判所の裁決書においては、審判官らが関係者に会って質問した内容を書面化した「質問調書」がよく決定的な事実認定の証拠として用いられているように読めるものが多いです。
 
 弊著でも指摘していますが、ここにおいて、当事者は同席しません。
 審判所の者だけで、問い答えが行われ、審判所の人間が、それを書面としてまとめます。

 民事訴訟法・刑事訴訟法を学べば分かることですが〜つまり、学んだことがない人には分かりにくい〜、反対尋問制度がなぜあるのか、供述の書面化のどこに問題があるのか、そういった数々の危険性を認識して、国税審判所では「質問調書」が作られているのでしょうか。
 つまり、国税不服審判所の職員は皆、訴訟法・証拠法則の知識と理解をもって、「質問調書」を作成しているかどうかということです。

 もしかしたら、ナイフの怖さを知らずにナイフを振りましているかもしれません。ただそれは、国税不服審判所に限らず、税務署職員による税務調査の際の「質問てん末書」といった書類についても同様です。

 国税不服審判手続きでの「質問調書」が閲覧謄写の対象となったなら、もしかしたら国税不服審判所全体のさらなるレベルのアップに繋がるチャンスとなったのではないか、足らずを知るという機会を、自らの向上の途を自ら閉ざしたのか。
 批判は成長の好機です。
 残念で仕方ありません。
 まあ、プライバシーが、調査の秘密がということなのでしょうけど。まるまる除外する必要はなかったのではないかと思います。
 残念!
                      (おわり)

*去年見た映画、「恋するミナミ」のチケット。写真の場所は、卓球バー。


 

2014年10月29日水曜日

脱税報道から見えるもの〜大切なものは目に見えない

 平成26年10月29日の報道です。
 産経ニュース
 東京の映画製作会社が、平成24年8月期までの5年間に10億円の所得隠し。
 重加算税を含めた追徴税額は約4億円。会社は、修正申告をし既に納付済みとのこと。

 手口とされているのは、次のとおり。

・興行やDVDの販売で得た収入の一部、数億円を申告せず。
・海外での興行収入を簿外口座に入金させて、申告せず。
・映画製作費にかかる経費について、一部を二重計上。

 「同社は「見解の相違もあったが、国税当局の指摘を受け入れた。真摯(しんし)に受け止め、適正な経理、税務処理に努める」としている。」

 とのことです。

 収入の申告をしていなかったことが分かった。
 取引先との契約内容を国税に掴まれたということですね。映画の興行やDVDの販売実数については、反面調査で取引先から掴んだのでしょうか。

 海外での興行収入を入れていた簿外口座が発覚。
 会社で、簿外口座の存在が明らかになる通帳あるいは裏帳簿が発見されたのでしょうか。海外の取引先からというのはなかなか国税も掴むのは難しいかと思います。
 ちなみに、簿外の口座に売上金を入れて、申告していなかったら、弁解は難しく、国税通則法68条1項、仮装隠ぺいありとして、重加算税の賦課決定処分を受けるはやむを得ないと思われます。

 経費の二重計上。
 水増し。これは、自社での単なる帳簿上の処理か。

 この会社は、東京国税局の調査の結果の指摘を受け、見解の相違はあったが、修正申告したようです。いったいどの点でのどのような見解の相違だったのか。
 所得の帰属でしょうか。経費のカウントの仕方でしょうか。
 気になります。

 資本金1000万円、業務内容は次のとおり。



OUR BUSINESS

  1. 映画、テレビ・ラジオ番組、ビデオソフト、コマーシャルソフト、出版物、ゲームソフト、コンピューターソフトの企画、制作、購入、販売
  2. 映画、音楽、ゲームソフト、コンピューターソフトの複製、頒布、賃貸、並びに輸出および輸入
  3. 上記ソフトの著作権、商標権、意匠権の管理および販売
  4. 演劇、演芸、講演会の企画、制作
  5. キャラクター商品の企画、著作権、商標権、意匠権の管理および販売
  6. タレント、音楽家、作家、映画・舞台の監督、演出家および映像技術者等のマネージメント

 報道によれば、25年8月期の売上高は9億円とのこと。

 事実だとすると、5年間で10億円の所得の隠ぺいだとすると、ちょっとやり過ぎだったかも。法人税法違反で社長は刑事告訴されないのでしょうか。
 
  毎日新聞の報道によれば。
 毎日新聞の取材に対し、同社の社長(67)は「(新たに作り直す)リメークをすることもあるので(経理処理を決算期ごとに)締めないのが業界の慣習。あとでまとめて申告するつもりだった。国税局と見解の相違があったが、最終的に指摘に従って修正申告に応じた」と話した。

 この報道が事実とすれば。
 そのような「業界の慣習」が本当にあったとして、それで会計処理して、決算書を作成し、法人税の申告をしていたのでしょうか。
 慣習があったとしても、事業年度、決算の目的からして、売上げを計上しないとかは、リメークの有無に関わらずないような。。。
 申告担当の税理士さんは、何をどう判断したのか気になります。
 会社の経理で不審な点に気づいても、税理士さんの立場って悩ましいようですね。
 言って聞く社長かどうか。

(おわり)

 

2014年10月27日月曜日

税法の世界に対する思い

税法に対する、弁護士としての思いは、2014年7月、日本加除出版社から出版していただいた拙著の「はしがき」と「おわりに」に記したとおりです。
税理士・弁護士のための税務調査の後の不服申立てガイド

一言で言えば。

税務調査、課税処分等の世界、もっと法化される余地がある、ということです。
弁護士の目からみたら、えっ?こんな事実認定してるの?それを税理士さんは、納税者は本当に受け入れているの?といったことです。

しかし、じゃあ、弁護士だけで税務調査の立会い、要は、おかしな調査でおかしな修正申告がされないよにとチェックできるかとういと、それは不可能です。
弁護士業を本業としていて、税理士登録し、法律事務所で申告業務ができますという方がいらっしゃったら、無知の知を知れ、と思います。
知らないことを知らなければ、弁護士でも相続税の申告書の作成の仕事を受けてしまったりするのでしょう。
そういうことです。

しかし、税理士の先生方も、本当に証拠評価や事実認定論を専門的に経験として仕事とされているのか。裁判所でのどのような裁判手続きのもと、どのような心証をとって裁判所で事実認定がされるのか、また、法律の解釈論、先例判決の評価はどう考えるのかといったことは本業から外れているのがほとんどだと思います。

この各専門性の狭間に落ち込んでいるのが、今の日本にいる納税者ではないかと思います。
それが国税審判所での4年間の経験で、抱いた問題意識です。
納税者のために。

そのためには、税理士と弁護士の協働が、対課税庁との場面では不可欠だろう。
それが今の一つの方向性です。

納税者を応援したい、足らずを知る税理士さんを応援したい、
弁護士はあくまで伴走者。

訴訟になったら、税理士は「補佐人」とされていますが、
訴訟の前段階では、弁護士が税理士の「保佐人」であってもいいのではないか。
そうした思いから、徒然と税法周りで、思うこと気づいたことなどを綴っていきます。