2015年4月29日水曜日

サッポロVS.国税のその後ー国税との戦い方ー


*国税不服審判所でご一緒させていただいた、佐藤善恵税理士との雑誌連載です。
 やりとりが本当に勉強になります。

1
 平成27年4月29日の日経新聞から。
 サッポロ対国税の争いのその後が報道されていました。
 「国税当局は28日までにサッポロに対し返還しないと通知した。」

2 
 この記事では、法的なところが曖昧な表現で記述されているためはっきりしたことはわからないのですが、時系列として法的なところは次のようなことなのかと思われます。

 「国税から『第三のビールに該当しない可能性がある』との指摘をうけて14年6月に出荷を停止」
 税務調査を受け、修正申告の勧奨を受けたということでしょうか。

 「サッポロは同時に、酒税についても第三のビールでないと場合との差額115億円と延滞税1億円を自主納付した。」
 勧奨を受け入れ、修正申告をし、納付したということでしょうか。

 「その後の社内調査で当時の極ゼロが第三のビールである確証を得たとして今年1月に国税側に返還を請求していた。」
 更正の請求をしていた、ということでしょうか。

 そして、今回の報道。
 「国税側からサッポロに届いた書面には返還しない決定に至った論拠も記されているもよう。」
 更正の請求に理由はない旨の通知が届いた、とういことでしょうか。そして、そこには理由附記がされていた、と。

3
 この事件を追っている日経の記者のかたは、おそらく国税には詳しくない人であろうとことが伺われます。わざと専門用語をさけてわかりやすく書こうとした結果なのかもしれませんが、かえって事実が曖昧です。
 サッポロは一体何をしているのかがよくわかりません。

4
 なにか報道されていない事情があるのかもしれませんが、今回のサッポロの戦い方はあまりよい戦い方ではなかったかと思います。
 調査の結果の指摘を受け、修正申告の勧奨を受け入れて修正申告するなら、その時点で徹底的に調査して、申告納付するなら納得してそうすべきでしょう。
 修正申告を出してから、やっぱり違ったと更正の請求をしても、それ自体は、そりゃあ、理由はないとされるでしょう。
 報道では次のとおり。
 「当局への異議申し立てなど返還を求め争うことも選択肢に検討を進める考えだ。」
 サッポロ。そもそも更正の請求が認められるとでも思っていたのでしょうか。。。
 ここにきて、更正の請求をするなら、裁判所で争う覚悟をもって、更正の請求をすべきでしょう。
 
 本税の額が100億円を超えるので、慌てて修正申告、納付をしたということなのかもしれませんが。
 仮に、国税からの指摘が間違っていたという結論が後から出た場合、更正の請求では、勝つ確率が、修正申告をせずに更正処分を受けて争う場合に比べ、法的には、低くなります。
 取り戻せるものも取り戻せなくなる確率が高まります。
 なぜなら。やはり、申告納税制度という基本、納税者の義務と責任という大本があるなか、いったん自ら修正申告しているという事実は看過できない意味合いをもつからです。納税者の方が、前の申告は間違ってました、こちらが正しいですという事実のための証拠を提出していかねばならないという仕組みになってしまいます。
 
 前にこのブログで書いたように、昨年、それなりの金額、1000万円を超える金額をこの対応のためのアドバイス費用などとして専門家に支払っているようです。
 一体、どういうアドバイスを受けていたのか、あるいは、経営陣がどのような判断をして、昨年、修正申告に応じ、納付したのか。
 中途半端というか、不慣れな印象を拭えません。

5
 そもそも、ことは酒税。弁護士で、バリバリの酒税法の専門家がいるとも思えません。また、税理士さんなどでも同様。
 ましてや裁判官は。
 国税の主張に引っ張られる可能性が高いと思います。
 サッポロ。もっとシビアな経営判断が必要だったのではないかなと思われます。全部、報道を見ている限りでの推測にすぎませんが。
 本当はよく考えていて、単に報道の仕方がいまいちなだけの 可能性もあります。

                      (おわり)4/30追記 前のエントリーとの矛盾があるように読めます。結局、修正申告して、更正の請求をするのはダメな戦い方、戦うならば更正処分を受けて。ただし、納付は先にしておくべし、ということです。
今回、サッボロが何をどうしたのか。4月の記事を読むと、これはもう、残念なことに、修正申告をして、納付し、更正の請求をしたのかな、と読めます。
いずれにしても、まずは納付しておく、というのは鉄則なのは間違いないです。



*2010年から2013年の名古屋時代、数十年にわたるペーバードライバー状態を卒業しました。
 大阪に戻り、弁護士業を再開してからは、車を活用しています。さらにフットワーク軽く動けるようになりました。資料がご相談者のもとに多くあるときなど、それらをもって事務所に来てもらうよりも、こちらから出向いた方が効率的です。車なら、交通の便がそれほどよくないところでも楽チンです。
 

2015年2月5日木曜日

酒税115億円、返還請求




1
 「国税不服審判所の予算」というタイトルのエントリーで、サッポロの酒税、極ゼロは第三のビールではなかったという件について、少し触れていました。

 「特別損失として「酒税追加支払額等」、116億3900万円を計上しています。関連して、「アドバイザリー費用」が3500万円、その他が1100万円。」

 
 この件、サッポロは、その後、自社で調査を続け、やはり「第三のビール」だった!ということで、国税にいったん収めた酒税、115億円の返還請求を国税にしたようです。
 日経新聞平成27年1月31日付朝刊より。

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 第三のビールではないとの国税からの指摘を受けた といった際には、販売中止になったということもあり、平成26年6月頃、結構大きく報道された記憶です。
 
 しかし、サッポロが、国税の指摘は間違いだったと、収めいた税金を返せといったというとき(更正の請求をしたのでしょうか)は、あまり大きくは報道されておらず、報道記事も見落とすところでした。
 
 サッポロホールディングス。
 対応としては、すごく正しい対応をしたのだと思います。

 税務上の指摘をうけたのち、それを鵜呑みにすることなく、その指摘の適否をきちんと検証しています。
 また、その検証に時間を要すると判断したことから、いったんは、指摘に応じた納税を行っています。
 本来は、検証のための時間を確保したのち、指摘に応じて納税をするのか否かを判断すべきなのでしょうが、今回は、法的な検討というよりも、科学的な検討になることからそれなりに時間を要する、国税の方が、この検証のための猶予を与える姿勢を見せなかったのでしょう。
 納税に応じないと、処分を受ける、処分をうけてからとなると、それが正しかった場合、延滞税等が元が億単位だとかなりの金額になります。
 そこで、まずは指摘をうけいれて納税してしまったのでしょう。

 ただ、すべて納得して納税をしたわけではない。
 検証のための実験等を続けた。
 そして、平成27年1月、国税の指摘は間違っていた!ということで、納めた税金の返還を求めたのだと思います。
 ここで、サッポロホールディングスの判断が正しかったということになれば、市場金利よりもよい利率での利子がついて返還されることとなります。


3
 納税者として、非常に賢い行動をとったと思います。
 今回、返還を求めて争って、やはり国税が正しかった、ということになったとしても、サッポロホールディングスは、それ以上に失うものはありません。
 弁護士・税理士費用くらいでしょうか。。。

 最悪なのが。
 納めずに争い、負けた場合です。失うものが多すぎます。

(おわり)




2014年12月27日土曜日

「所得隠し」と言われて重加算税が課されいるようだけど、どうなんだろう。

 2014年12月25日の日経夕刊などでの報道から。
 アルミホイール製造の大手、浜松市に本社のあるエンケイ株式会社会社が、過去5年間で、約11億円の申告漏れを名古屋国税局に指摘され、うち6億円は所得隠しとして、重加算税も課され、修正申告して、約2億円を納付したようです。
 非上場会社なので詳細は不明ですが、報道からは、2013年3月期で、約536億円の売り上げ
 会社のサイトによれば、国内従業員約1000人海外事業所14社従業員約6000人の規模のようです。
 
 報道による事実関係は、次のとおり。
 中国子会社から購入した製品に欠陥があり、約4億円の債権を中国子会社に対して有することに。しかし、これが回収できず。
 他方で、中国の子会社から2010年、2011年の3月期に、約4億円の配当収入を受けることに。
 ただ、エンケイは、香港にベーパー会社を有していたということで、この香港の会社の口座を使って、約4億円の収入を未回収だった債権の分の弁済金として付け替えて受領、処理したよう。
 これをもって、所得隠しとして、重加算税が課せられたようです。
 
 エンケイ。サイトをみてみると。
 1992年には、中国の江蘇省昆山市経済技術開発区にアルミホイールの製造販売の会社を設立、2002年には、さらに鋳造用金型等の製造販売の会社を、そして2005年には、広東省佛山市にアルミホイールの製造販売の会社を設立しています。
 その他、アメリカ、フィリピン、インドネシア等にも事業所を有しています。

 海外の関連子会社がらみの経理、税務処理も相当、年季が入っているはずなのに、なぜこんな稚拙ともいえそうな手法での所得隠しをしたのか。
 なぞです。

 非上場会社なので、創業者一族の会社ということなのでしょうが、これだけの規模の会社の経理財務体制がどうなっているのか、気になります。

 大手監査法人系の税理士法人等もアドバイザーにいないとは考えられず。社内の体制がどうなっているのか、気になります。

 にしても。中国子会社からの配当金、益金不算入制度の要件を満たすようにはなっていなかったんでしょうね。
 「所得隠し」と報道されていますが、他に「経理ミス」もあっての申告漏れ約11億円ということなので、「所得隠し」と報道されて重加算税も課せられているらしい約6億円の所得隠しの分も、もしかしたら,大した悪意のない、付け替え、配当金入ってくるなら、未回収金の回収としちゃえ、くらいのものだったのかもしれません。

 この辺り、社内の担当者のレベル、質の問題が大きいのではないかと推測します。
 あまりにも単純すぎて、単なる担当者の無知にすぎない重加算税なのかもという疑念ありです。
 社内での人材育成、スペシャリスト養成は会計分野が重要です。
(おわり)

これは朝日新聞のサイト。図もあります。






 

2014年12月4日木曜日

国税不服審判所の予算

 講演の準備として、そういえば国税不服審判所の予算は年間いくらだったっけ?とググりました。
 「国税不服審判書 予算」

2 
 ピタッとしたものは出てこなかったのですが、上記写真のPDFがヒットしました。

 平成25年の成立予算額です。

 国税不服審判所 年間合計約44億7000万円
 うち、「審査請求の調査及び審理に必要な経費」、約1億4000万円。
 なんでしょう?

 予算のほとんどは、おそらく人件費と思われます。約500名分。
 その他に、1億4000万円。
 審判官、審査官らが現地に赴く際の交通費?英文書類等の翻訳費用? 
 調査のためにどういった費用を使うのか、ちょっとピンと来ません。

 その他。
 「独立行政法人酒類総合研究所運営費」として、約9億6500万円。
 なんでしょうか、この団体。

 ググりました。
 広島にあるんですね。
 
 「酒類総合研究所は財務省所管の独立行政法人として、国税庁の施策を実施するため、酒類に関する技術的な面での業務を行っております。基本的な方針としては、酒類に関する高度な分析及び鑑定を行い、並びに酒類及び酒類業に関する研究、調査及び情報提供等を行うことにより、酒税の適正かつ公平な賦課の実現に資するとともに、酒類業の健全な発達を図り、あわせて酒類に対する国民の認識を深めていただくことを目的として業務に当たっています。」
 
 総勢45名、うち研究職員32名。

 ここが、今年6月頃、大騒ぎになったサッポロの第三のビール「極ゼロ」は、第三のビールじゃない!といった検証・研究をしているのでしょうか。

 この組織の予算とは別に、「酒類業の健全な発達の促進に必要な経費」として、約4億円の予算が成立しています。
 酒関係だけで、国税庁として、約13億円の予算をとっています。
 
 「酒・たばこ」と並び評されることが多いと思うのですが、この「酒」と「たばこ」の今の取り扱いの差はいったい何に原因があるのでしょうか。
 ちなみに、平成25年度の酒税収入は、1兆3740億円のようです。
 この国税の酒税獲得のために、研究費的なものとして13億円をかける意義はあるのでしょうね。よくわかりません。
 
 ちなみに、サッポロは、特別損失として「酒税追加支払額等」116億3900万円を計上しています。関連して、「アドバイザリー費用」が3500万円、その他が1100万円。なんのアドバイザリー費用なんでしょうか。争うべきか否かとして、税理士法人と弁護士法人からのアドバイス費用なのでしょう。


 また、平成25年のサッポロの研究開発費は、約26億円のようです。ただ、国内の酒類事業の研究費としては16億円だったようです。
 
 またしても、だから何?という、ものでした。
 へーっ、ということで。

 たまに、ネットサーフィンではありませんが、政府の公の資料、ネット上の資料を紐解くと、面白いです。
(おわり)

*無心に、研究。



 

2014年11月28日金曜日

「税法に、国税不服審判所は必要か?」






 12月6日土曜日、母校の関西大学で、「税法に、国税不服審判所は必要か?」というテーマで、講演をさせていただきます。
 90分。税法を学ぶ人、税法を使う人にとって役に立つものにしたいと準備しています。


 今回、準備する中で、自分は 何を一番伝えたいのかと自問自答していく中でいきついたのは、「もっと法律を!」というものです。

 経済的合理性はもちろん分かるのですが、さらにレベルの高い税務行政へと進化する必要があるのではないか。そのためには、といったことを考えました。

 聞きに来られている方々の関心事とうまく合うかどうか心もとない限りですが、税法を学ぶ学生の方々へという思いで、より広い視野をとの思いで、話をしたいと思います。
 
 頑張って、成蹊大学の塩澤一洋教授がすすめておられる、デジタル黒板、 iPad Air とMetaMoji Noteを使う予定です。使いこなせるか。練習していきます。

http://shiology.com/shiology/2014/03/3614-140318-ipa.html
 

(おわり) 
*ガジェット、大好きです。数年前に買ったkindle。



2014年11月26日水曜日

国税通則法違反と不起訴処分

1 
 平成26年11月22日の日経朝刊の記事です。
 京都地方検察庁は、調査情報を漏洩したということで書類送検されていた、元大阪国税局職員(47歳)について、不起訴処分とした、というものです。
 不起訴の理由は不明とのこと。


 情報漏洩での国税通則法違反というと、おそらく、国税通則法126条です。
 「事務に関して知ることのできた秘密を漏らし」たときは、「2年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する」とされています。

 検察庁への書類送検、とは。
 刑事訴訟法246条本文、です。
 司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、この法律に特別の定めのある場合を除いては、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。
 
 そして、この「事件」送致を受けた検察官が「公訴」を行うか否かを決めます(刑事訴訟法247条)。
 この時、検察官が、公訴をしないと決めたことを「不起訴」処分といいます。

 報道の、元大阪国税局職員は、「不起訴」とされたということは、刑事裁判にはかけられないこととなったということです。
 ですので、懲役刑あるいは、罰金刑に処せられることはありません。

 では、どのようなときに、検察官は、「不起訴」とするのでしょうか。

 刑事訴訟法248条です。
 犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の状況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。
 これはら、「不起訴」の理由の一つの「起訴猶予」というものです。
 
 そのほかに「不起訴」とされる理由は、「嫌疑不十分」というもがあります。
 検察官が、公訴しても、有罪判決となる見込みはない、証拠が十分ではないという場合もまた、不起訴処分となります。

 今回の元大阪国税局職員の不起訴処分の理由は明らかてはないということですが、「元」職員という報道からして、おそらく捜査を機会に退職しているのだと思われ、となると、本人自身も嫌疑については争ってはおらず、退職までしていること、事件そのものもお金をもらってといった事柄でもなく、比較的軽いと判断されたのではないか、「起訴猶予」による不起訴処分てはないかと推測されます。
 
 47歳ということで、おそらく、高校を卒業した18歳からか、あるいは大学を卒業した23、24歳から、20年以上は国税局で勤務してきた方だと思われます。
 退職して、いったい仕事、収入をどうするのか。
 退職理由がこのような嫌疑によるものだとしたら。
 ただ、能力のある方なら、長年にわたる税務調査等の経験、知識は、退職後も、その税務の分野で役に立つと思います。
 
 ちょっとした気の迷い、何かの誘惑、勘違い、理由・動機はわかりませんが、人生は続くので頑張って欲しいです。

 そして。
 職場としての再発防止策が問われるのでしょう。大阪国税局のこうした報道が一定期間、絶え間ないような気がするのは気のせいなのか。なぜなのか、不思議で仕方ありません。
 職場に対する不満、給料に対する不満、将来に対する不安?

 どのような職場においても、他人事ではないと思います。
 飲酒運転と同様、厳罰化が効果的なのかどうかはわかりませんが、不起訴処分の理由が起訴猶予だとしたら、それでいいのかという気がしないでもありません。おそらく、漏洩したとうされる「秘密」も、大した「秘密」ではなかったのだろうと思われます。

 京都ということと、情報漏洩ということで、10月23日のこの事件かなとも思うのですが、
 http://songjing55.cocolog-nifty.com/_yoshikomatsui2014_/cat23761237/index.html
 国家公務員法違反、逮捕、48歳、ということで、微妙に違います。
 今回の不起訴処分、いったいどの件のことなのだろう。
  
 もし、10月23日逮捕の事件のことだったとしたら、京都府警による、捜査は本丸にたどり着けなかったということか。
 ただ、逮捕されていたのなら、身体拘束の期間制限上、勾留期間は最長20日間なので、もっと早くに起訴、不起訴の処分が出ているはず。
 別件なのでしょう。
 ということは、京都の方で、なにかがうごめいてるということか。 

(おわり)

*しろくまは見ている!



 

2014年11月20日木曜日

米国子会社取引~商船三井の場合と「事実認定」の「技術」〜


 11月20日、今朝の日経朝刊に、これまた小さく小さく報道されていて、知りました。
 日経
 「商船三井は10年、税務当局から米子会社との港湾作業契約の料金が不当に高く、子会社への実質的な寄付行為にあたるなどと指摘され、49億円を追徴課税された。通常の商取引とする商船三井の異議が認められ、税金の還付が決まった。」
 
 異議申立てで課税処分が取り消しとなったのかと思いきや、商船三井の発表によると、国税不服審判所の審判によって課税処分が取り消されたようです。 

 2010年の課税処分。
 ただ、そもそもの更正処分は、移転価格税制に基づくものもあったようで、ただ、こちらは2013年2月、日米の税務当局による相互協議での合意により、二重課税部分とされた金額は、課税所得とされた部分の75%が減額され、商船三井もこれを受け入れていたようです。

 残るのが、寄付金課税ということで、この点を争っていたところ、国税不服審判所は処分を取り消したようです。

3 
 港湾作業
 確かに、特殊な業界だと思います。詳しくは知りませんが、放送業界などと同様、独特の取引慣行等のある業界ではないかと考えられます。
 放送業界と同様、他に似た、比較する業種がないものです。
 そこで「港湾作業契約」の対価の適否が問題となったようですが、結局、国税局の方が、「事実認定」があまかったということなのでしょう。
 
 課税処分が、国税不服審判所の裁決やあるいは裁判所での判決で取り消される場合というのは、結局、課税処分をした当局が主張する「事実」が、証拠上、認められないということです。

 この「事実」の認定は、長年の経験や直感で決まるものではありません。
 自著「税理士・弁護士のための不服手続申立ガイド」でも強調しているところですが、審判も判決も「手続」です。
 課税要件となる「事実」があったというためには、税務調査職員が納得すればいい、上司の税務署長が納得すればいいといったレベルのものではありません。

 結局は、「裁判官」が納得するかどうかです。
 国税不服審判所においても、判断は、第三者的機関として、裁判官的なものの見方をするように務められているかと思います。
 
 その行き着く先を考えたら、税務調査段階でも、課税をする税務職員らが意識すべきなのは、課税要件となる事実が認められるか否か、「裁判官なら、この証拠状況でどう判断するだろうか?」ということです。
 
 そして、これを実践するためには、実際の裁判手続において、どのような証拠が、どのように評価され、どのような経験則がもちいられるのか、裁判官は当事者、担当者らの証言の内容をどのような手法でもって判断するのか、そうした「事実認定のための技術」を知る必要があります。
 弁護士や検事といった法曹実務家においては、ごくごく当たり前のことが、よくよく考えたら世間一般では当たり前ではなかった、これは特殊な訓練のたまものともいえる特殊な技術だったということに国税不服審判所で働いてみてあらためて気づくことができました。

 現在、税務署、国税局において、末端の税務職員にまで、このような「事実認定のための技術」が教育されているのでしょうか?つまり、証拠の評価です。裁判所では,この「証拠」といわれるものはどのように評価されるのか、とういことです。

 よくはわかりませんが、納税者が徹底的に争った場合に、事実認定のところでこけて課税処分が取り消されている判例等をよむと、おそらく「体系的な研修」はそれほど徹底されていないのではないかと思われます。

 国税職員や、あるいは税理士さんは、もっと民事訴訟法を学んだ方がいいといった旨を自著に控えめに書いた真意はここにあります。

 「手続における事実認定」は、「技術」です。

 訓練がないと、実用には耐えられません。
 しかし、訓練すれば、裁判官が考えるように考えることができます。
 そこで、税務調査の段階において、税務調査職員と納税者との間に、証拠を巡る発展的な緊張関係が生まれれば、日本の税務行政の質がさらにあがり、結局は納税者もハッピーになる、そう夢想しています。

(おわり)

*海には海の掟がある。